「アルスラーン戦記A 王子二人」 田中 芳樹:著 角川文庫
ゴダルゼス二世は、大王と呼ばれるだけあって、英明な君主であったが、しいて欠点をあげるなら、迷信深く、やたらと縁起をかつぐことであった。まともな神官だけでなく、えたいの知れない予言者やら魔道士らを信用して、重臣たちをこまらせたものだ。
「ダリューン、おぬしは予言というやつを信じるか?」
ナルサスに、ふいにそう問われて、ダリューンはすこしおどろいた。
「そうだな、おれは信じぬ。というより、信じたくない。おれのやること、考えることが、太古の予言者とやらに見とおされていると思うと、気色がよくない」
ダリューンは、かるく苦笑しつつ答えた。
「おれはおれの意思で生きる。成功も失敗も、おれ自身の責任だと思いたいな」
『第1章 カシャーンの城砦』
「ナルサスはいないの?」
と、アルフリードが部屋にはいってきたとき、エラムは反発したのだった。
「ナルサスさまに、なれなれしくしないでおくれよ。知りあってから何日もたたないくせして」
アルフリードは、まるでこたえたようすもない。
「つきあいの長さと深さは、べつのものよ。そんなこともわからないの?」
『第5章 王子二人』