F1 Grand Prix 第8戦 カナダ
今回の舞台となる、ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットは、モントリオール市内を流れるセントローレンス川に浮かぶ小さな島、イル・ノートルダム島の中にあります。1周、4.421キロメートルを69周、全長は305.049キロメートルになります。
決勝当日の気温は16℃、路面温度は20℃と、第7戦のモナコに比べますと、大変、涼しい気象条件です。今回、ブリジストンの用意したタイヤは、ソフトとミディアムの2種類。しかし、全車、ソフトタイヤを選択しています。むしろ、エクストラソフトの必要性も囁かれていた程です。ピット回数は、概ね、1回で済ますチームが多く、これは、このサーキットでは、3年連続、セイフティーカーが出動したことからの判断だそうです。
スターティンググリッドでは、ポールポジションにミハエル・シューマッハー、フロントロウにクルサード。3番手にバリチェロ、ハッキネンは4番手という順位。最近のタイムアタックでは、ハッキネンよりもクルサードの方が速い傾向にあります。しかし、フォーメーションラップ開始直前に、クルサードのマシンは、エンジンストール。なんとか、出走したものの、後々、このことがレースに大きく影響してきます。
スタートでは、1コーナーの全車突入によるアクシデントもなく、セイフティーカーの出番は、一切ありませんでした。シューマッハーとクルサードは、無難なスタートを決め、そして、6番手のヴィルヌーヴは、またしても、ロケットスタートで3位に浮上。決して、ハッキネンのスタートは悪くはなかったものの、ヴィルヌーヴのダッシュと巧みなラインどりに、ハッキネンの為す術は有りませんでした。
レース序盤は、シューマッハーとクルサード、しばらく間を空けて、ヴィルヌーヴ、という構図でした。ヴィルヌーヴは、前の2台を追いかけるのは無理であったにしても、後に続くバリチェロとハッキネンを抑え、なかなか隙を与えません。しかし、これは、シューマッハーとクルサードの独走を許す結果となり、10周を終えてみると、2位クルサードと3位ヴィルヌーヴには、約13秒もの差が開いていました。
しかし、このとき、クルサードは、10秒ストップペナルティという警告を受けてしまいます。10秒ストップペナルティとは、コースをショートカットして順位を上げたり、悪質な運転や行為をおこなったときに、罰則として、ピットで10秒間、車を停止させなければならず、このときは、ピットだからといって、燃料の給油やタイヤ交換は、一切、認められないという、大変、厳しいものです。何故、クルサードは、10秒ストップペナルティの警告を受けることになったのでしょうか? 実は、フォーメーションラップ時のエンジンストールが原因だったのです。普通、フォーメーショーンラップでスタートするときに、エンジンがストールした場合は、手をあげて、その旨を、審判に知らせなければなりません。しかし、彼はそうせずに、スタッフに、慌ててエンジンを掛けなおしてもらいました。この行為を、違反として判断されたのです。クルサードは、シューマッハーの後ろにぴったりと走っていたものの、10秒ストップペナルティの後には、10位に後退してしまいます。
代わって、2位になったのは、ヴィルヌーヴ。…とはいえ、先頭のミハエル・シューマッハーを追いかけることは出来ません。20周目には、その差は18秒と開くばかりです。困ったのは、ヴィルヌーヴに遮られてしまっている、3位のバリチェロと、4位のハッキネン。モナコほどではないにしても、このサーキットも、抜きどころは少なく、前方を走る車よりも性能が上であっても、なかなか、容易に交わすことは出来ません。…ところが、バリチェロは、しびれを切らしたのか、それとも、ずっとチャンスを窺っていたのか、ヴィルヌーヴを追い抜こうと勝負を仕掛けます。この2台の攻防は、レース全般においても、とても見物でした。遂に、バリチェロは、ヘアピンでヴィルヌーヴを交わすことに成功し、フェラーリのワン・ツー体制を築き上げます。
レース中盤、ミハエル・シューマッハーは、33周目にピットイン。9秒5というタイムで、燃料再給油とタイヤ交換を済ませ、コースに復帰。この頃には、ハッキネンも、前を行くヴィルヌーヴを交わし、3位へ浮上。ようやく、フェラーリを追いかけようというときでした。…なんと、雨がぽつりぽつりと、振り出してきたのです。それにも関わらず、ハッキネンは、ピットインすると、晴天用のタイヤに交換したのです。おそらく、直ぐに雨は止むと思ったのでしょう。しかし、残念ながら、マクラーレンの思惑通りにはいきませんでした。雨は本格さを増し、各車一斉にレインタイヤへの交換を余儀なくされます。ミハエル・シューマッハーは、早々に、タイヤを交換します。それでも、ハッキネンは、なかなか、レインタイヤには交換しようとしません。この雨は、フェラーリに幸運をもたらしたものの、ハッキネンの味方とはなりませんでした。もし、雨の振り出したときに、レインタイヤに交換していれば、間違い無く、フェラーリの2台を逆転していたことでしょう。しかし、全て、後手へと回ってしまい、ついには、表彰台圏内(3位)からも脱落してしまいます。
一方、ヴィルヌーヴは、一時は2位を走行していたものの、この雨の影響により、10位まで後退してしまいました。その後、ヘアピンでは、ラルフ・シューマッハーと激突し、両者は、そのままリタイアしてしまいます。カナダ・グランプリは、ヴィルヌーヴにとって、母国でのグランプリでもあっただけに(サーキット名にもなっている、ジル・ヴィルヌーヴは、ヴィルヌーヴの父親)、地元のファンにとっても、残念でした。…でも、前半のパフォーマンスは見事でした。
結局、レースが終わってみると、フェラーリは、ワン・ツー・フィニッシュを飾り、ミハエル・シューマッハーは、アイルトン・セナの41勝に迫る、通算40勝を獲得。また、1年10ヶ月振り、13戦振りにして、ようやく、ポールトゥウイン(ポールポジションでレースを始め、そのまま1位でチェッカーフラッグを受けること)を決め、これまで、ポーポジションを獲得したドライバーは、何故か優勝できないという、ジンクスを打ち破りました。また、ベネトンのフィジケラは、このサーキットとの相性も良いのか、4年連続表彰台という、見事な戦績を残しました。次戦、F1グランプリ、第9戦は、フランス(マニクール)です。7月2日に、決勝がおこなわれます。