F1 Grand Prix 第3戦 サンマリノ
サンマリノ・グランプリは、エンツィオ・エ・ディノ・フェラーリ・サーキットというサーキット名からもお分かりいただけますように、フェラーリの地元で開催されるグランプリです。それだけに、サーキットの中は、ティフォッシ(熱狂的なフェラーリのファン)達で、ほとんど埋め尽くされ、他チームにとっては、大変、戦いにくいところでもあります。1周4.943キロメートルを、62周、全長306.229キロメートルで、決勝は争われました。
ここ2戦、マクラーレンのミカ・ハッキネンは、ポールポジションの定位置を獲得しておきながら、エンジントラブルに悩まされ、フェラーリに優勝を譲るという皮肉な結果を招きました。もし、このグランプリで、また、シューマッハーが優勝することになれば、1996年のデーモン・ヒル以来の、開幕3連勝ということになります。もちろん、ミカ・ハッキネンは、それを易々と許すわけにはいきません。それを阻止する意気込みは、予選にも影響し、3戦連続のポールポジションを獲得。しかし、そのすぐ後ろには、ミハエル・シューマッハーが控えています。直接対決に相応しいポジションとなりました。その後に、クルサード、バリチェロと続きます。誕生日を迎えたばかりのヴィルヌーヴは、なんとかシングルグリッド(1桁台のポジション。1〜9番手グリッド)を獲得し、ホンダエンジンの素晴らしさをアピールしました。
スタート直後、9番手のヴィルヌーヴは、ロケットスタートを成功させ、一気に5番手に浮上します。また、バリチェロも、クルサードを交わし、4番手に踊り出ます。
序盤の先頭2台の争いでは、まず、ミカ・ハッキネンが、じわりじわりと、シューマッハーとの差を広げ、20周台には、その差は4秒にまで広がりました。そして、27周目、ハッキネン、シューマッハー両者同時ピットインという、今レース2番目の山場を迎えます。ピットワークでは、シューマッハー9秒9、ハッキネン7秒6となり、ハッキネンの後からピットインしたシューマッハーは、1回目のピットストップで、ハッキネンを交わすことが出来ませんでした。しかし、一見、ハッキネン有利に見えるこの一幕、むしろ、シューマッハーの作戦でもあったのです。
終盤に差しかかり、45周目のところで、ハッキネンは、2回目の燃料再給油とタイヤ交換をおこないます。ピットワークのタイムは8秒3。しかし、先程、同時にピットインしてきたシューマッハーは、まだ、ピットに入ろうとはしません。この後、3位のバリチェロと4位のクルサードが、同時にピットインしてきます。そして、先に作業を終えたのは、クルサード。サーキット上では交わせなかったバリチェロを、ピットワークでは、僅かな差でバリチェロの前に出ることが出来ました。サンマリノ・グランプリの舞台となっているイモラは、大変、追い越しにくいサーキットであるだけに、ピットレーン内での戦いが、それ以上に面白いのです。
そして、48周目、シューマッハーがようやくピットイン。今度は、6秒2という早業で燃料再給油とタイヤ交換を終え、コースに復帰。そして、このピットワークで、シューマッハーは、ハッキネンの前に出ることに成功。序盤戦とは反対に、今度は、シューマッハーが約4秒差をつけることになりました。何故、逆転に転じることが出来たのでしょうか? キーポイントは、1回目のピットインにありました。シューマッハーの給油時間は約10秒。対して、ハッキネンは7秒半。シューマッハーは、ハッキネンよりも多めの燃料を積んでいることになります。そうなりますと、先に燃料切れになるのは、ハッキネンの方になります。その後、最後まで走りきれるだけの燃料を給油しなければなりませんから、給油後は、車体も重くなり、その分、スピードも落ちます。しかし、シューマッハーは、次に給油するまで、車体重量も軽く、ハッキネンよりも給油を遅らせることで、この後、積載させる燃料も少なく済みます。1回目のピットワークの遅れは、むしろ、シューマッハーを有利に導くための布石だったのです。
F1は、ただ速く走れば、良いというものではありません。戦略・戦術も巧みに組み立てなければ、いくら予選でポールポジションを獲得しても、より優れた作戦を立てたチームに、優勝の座を明渡さなくてはならないのです。私が、F1に熱中する理由は、この点にあるのです。
結局、チェッカーフラッグを最初に受けたのは、ミハエル・シューマッハー。その1秒遅れにミカ・ハッキネン。ハッキネンは、今シーズン初めての完走とはいえ、決して、喜べる結果ではありませんでした。次戦、イギリス・グランプリは、4月23日、シルバーストーン・サーキットで決勝がおこなわれます。マクラーレンとしては、フェラーリよりも、上位で入賞を果たさなければ、穴を埋めることは出来ません。大事な一戦でもあります。