「ただいまこの本品切れです」 鈴木廉也:著 ミオシン出版
私は、読書を趣味としている。読書と一口にいっても、様々なジャンルがある。私の好きなジャンルの一つに、読書論というものがある。要は、読書のコツみたいなものである。そんな本を何冊も読んでいくうちに、いつしか、本屋さんに関することにも興味を覚えていく。この本はまさしく、そんな本屋さんの裏側を、教えてくれる一冊である。
例えば、雑誌の付録を挟み込む作業をおこなっているのは、実は、書店員であったという事実を、私は今まで知らなかった。小学校低学年の頃、よく「小学○年生」という雑誌を買ってもらった。この雑誌には、いろんな付録が挟みこまれていて、これを楽しみにしている人も少なくなかった。付録の付いている雑誌は、この他にもたくさんあって、中高生のときには、祖母のおつかいで、婦人誌をよく買いに行き、年末あたりになると、家計簿や日記帳などのぶ厚い付録で、雑誌がぱんぱんに膨らんでいたことを思い出す。そんな付録にまるわるエピソードから、話は始まっていく。
この本では、芸能界には芸能界で通用する業界用語があるように、本屋さんの業界でよく用いられる業界用語についても、いくつか説明されている。例えば、「ジプシー雑誌」という言葉なんて、ほとんどの人は聞いたこともないだろう。放浪生活する人のことを「ジプシー」というように、ジプシーには、定められた場所に移住しないというイメージがある。例を挙げると、「週刊ベースボール」を、週刊誌の棚に置く人もいれば、スポーツコーナーに置く人もいるように、置くべき場所のはっきりしない雑誌のことを、そう言うらしい。
ほかにも、食事や休憩をとるための部屋のことを、「バックルーム」とか「バックヤード」という。このバックルームについても、裏話はある。また、本に挟まれている細長い紙、いわゆる「スリップ」には、一体、どんな利用目的があるのか等、普段は気にもしないそんな一面を、全て教えてくれる。
特にこの本の中で、共感を得たのは、読書感想文にまつわる話についてである。よく、「読書感想文には、人を読書嫌いにさせるデメリットしかない」と言うように、著者も読書感想文の存在は、ナンセンスだと主張する。特に感銘を受けた2点を抜粋する。
「そもそも、自分自身、読書感想文自体に大きな疑問があった。それは未だに変わってはいない。というのも、読書した感想を作文に書くこと自体が全くナンセンスであるし、それ自体を誰がどう評価するというのであろうか。どこにも正しい答えなど存在しないのに、それを誰がどうやって採点するというのであろうか」
「本当に本が好きな人々は、その感想を人前にさらすのを目的で読んでいるわけではないし、ましてや作文にして人に読んでもらおうなんてさらさら思っていないはずである。本の感想なんていうものは、本来、自分の心の中にとどめておけばいいものであるし、それが自然な姿であると思うのだが、どうだろうか。」
この本を読んで、本屋に就職しようとする人は、「本屋って大変なんだなぁ」と感じるかもしれない。でも、これから本屋に通うとき、間違いなく本屋に対する姿勢は変わっていくはずだ。頑張れ、店長を始めとする書店員のみなさん!