027「アイデアは夢の如し」
アイデアの思い浮かぶタイミングについては、bO12で「流れ星の如し」と説明したが、アイデアの忘れやすさを例えれば、それは「夢の如し」である。
頭の中に浮かんだアイデアは、そのときに何らかの形でメモを残さないと、あっという間に忘れ去られてしまう。それは1分という時間でも長いくらいである。
朝、目が覚めた瞬間に何か夢を見たことは覚えていても、何の夢を見たのか覚えていないことが多いように、アイデアも「さっきは何か思いついたような気がしたのに…」と、その内容を忘れてしまうことが多い。よほど衝撃的な夢やアイデアでないと、いつまでも頭の中には残らないものなのである。
- 家に帰る途中、車の中でアイデアが思い浮かんでも、家に着いてメモ帳に書き込もうとしたときには、「何かメモを取らなくてはいけなかったような…」という結末に終わる経験を何度もしてきた。
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【続「超」整理法・時間編】(野口悠紀雄:著、中公新書)より抜粋してみた。「もっと深刻なのは、中断によって、アイデアそのものを忘れてしまうことだ。これについて、上智大学の渡部昇一教授が、歴史に残る悲劇を紹介している。それによると、イギリスの詩人コールリッジは、クラブ・カーンという詩を五十数行目まで書いたとき、訪問客に中断された。わずか数分の中断だったが、机に戻ったときには詩のイメージは失われており、そのため、英語でもっとも美しいといわれている作品が未完のままになっているというのである」。このように、仕事を中断したときに発生する物忘れや資料紛失などの諸症状を、野口悠紀雄氏は「中断シンドローム」と名付けている。また、この悲劇については、【文章を書くヒント】の中でも紹介されている。
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【板坂元の「知的生活」事典】にも、「項目を書き抜こうと思っても案がなかなか出てこないときもある。逆に、道を歩いていて何かの拍子にパッと考えつくこともあるはずだ。こうしたアイデアやヒントというのは、そのままにしておくとほどなく頭の中から消え去ってしまい、もっと時間がたつと、いったいどんなことを思いついたのかさえ忘れてしまうことが多いのだ。だから、アイデアはその場でメモしておくに限る」とある。
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【本を書こうよ!】の中にも、同様のことが記されている。「頭の中に浮かんだアイデアはよほどそのことに関して意識的に思い出していないと、確実に本当に短時間で忘れ去ってしまう。短時間というのはほんの数十秒である。せっかく湧いたアイデアも定着しなければ見事に忘れてしまうのである。これの良い例が夢だ。朝起きてもほとんど覚えていない」